芥川賞と直木賞の違いは?ダブル受賞はあり得る?

「芥川賞と直木賞」

小説の二大賞とも言えますが、その違いは意外に知られていないかもしれません。

「違い」

「どっちが上か」

「両方同時のダブル受賞」

等々も気になるところですよね。

映画化もされた人気漫画「響~小説家になる方法~」では、芥川賞と直木賞のダブルノミネートも物語の核となっていますし、文芸界ではやはり特別な価値のある賞です。

今回は芥川賞と直木賞の違いや受賞について、さらには過去の受賞者や発行部数についても掘り下げてみたのでご参考ください。

目次

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芥川賞と直木賞

まずは芥川賞と直木賞についての概要です。

【芥川賞と直木賞】

  • 菊池寛が創設
  • どちらも年2回の選考と発表
  • 大きな違いは純文学か大衆小説か

正式名称はそれぞれ「芥川龍之介賞」と「直木三十五賞」で、もちろん作家名が由来です。

賞の創設は文藝春秋社社長の菊池寛によるもので、友人であった「芥川龍之介」と「直木三十五」の功績を記念して創設したものです。

書籍売上の落ち込む2月と8月対策としての目的もあったようですけどね。

なので、賞の選考と発表はどちらも上半期7月と下半期1月(発表はひと月後)の年2回に同時に行われ、上半期には前年12月~当年5月、下半期には6月~11月の間に発表された作品が対象となります。

賞与としては、賞金100万円と懐中時計(由来は芥川龍之介が懐中時計を愛用していたから)ですが、それ以上に栄誉という面が大きく、受賞以後の本の売れ行きも全く違ってきます。

芥川賞を受賞してからが本格的な作家業の始まりとして考えられる風潮すらあるくらいです。

芥川賞と直木賞の違い

芥川賞と直木賞の大きな違いとしては純文学か大衆小説かということですが、作家のキャリアと作品の長さについても分けられます。

芥川賞と直木賞の違いを比較してみました。

芥川賞 直木賞
創設者 菊池寛
創設年 1935年
選考時期 上半期7月・下半期1月の年2回
ジャンル 純文学 大衆小説
キャリア 若手作家
(無名あるいは新人作家)
中堅作家
(創設当初は新進の作家)
作品 短編~中編 短編~長編
受賞対象 作者 作品

新人作家じゃないとダメ、新人作家だとダメという区切りはなく、少し曖昧な基準でもありますが、おおよそはこのような傾向となっています。

そもそも、何年目からが中堅といった明確な区切りもありませんし、純文学と大衆小説も少し曖昧な部分もありますからね。

芥川賞と直木賞では、こういった傾向があるという認識で問題ないでしょう。

純文学と大衆小説って?

選考基準のひとつであるジャンル分けの「純文学」と「大衆小説」の違いも気になるところですよね。

ただこれは、はっきりと「これが純文学」「これは大衆小説」と決まっているわけではなく、作風といったニュアンスにもなってくる少し曖昧な部分でもあります。

純文学 大衆小説
芸術性や形式に重き 娯楽性や商業性に重き
表現に重き ストーリー展開に重き
手の届く範囲の出来事 手の及ばない事件

一概には言えませんし、区分は人それぞれの解釈にもなってきちゃうんですけどね。

純文学と大衆小説のざっくりとした違いとしては、このような認識がわかりやすいかもしれません。

芥川賞と直木賞どっちが格上?

読書する

芥川賞と直木賞のどっちを受賞するのが凄いのか、どっちが格上なのかは少し難しいところですが、特に上下は無いと考えてください。

対象作家が新人か中堅ということで、直木賞の方が格上とも考えられるかもしれませんが、選考基準の違いがありますし、そこはあまり気にする必要はありません。

受賞できなくても、最終候補に挙がるだけでひとつの権威とも言えるでしょう。

ノーベル文学賞

文学賞としての権威と言えばノーベル文学賞でもあるでしょう。

1年に1回、対象は世界という面で、芥川賞と直木賞よりも格上と考えるのも一般的でもあります。

純文学が対象なので、単純に芥川賞と直木賞と比べて最高峰と評することもできないんですけどね。

ただ、芥川賞と直木賞の売上と、ノーベル文学賞作家の世界売上とを考えると、どうしてもノーベル文学賞の方が上と考えるのも自然でもあります。

芥川賞と直木賞のダブル受賞はあり得るか?

受賞

映画化もされた人気漫画「響~小説家になる方法~」では、芥川賞と直木賞のダブルノミネートが物語の核となっていますが、この同時受賞はあり得るかを考えてみましょう。

【芥川賞と直木賞の選考ポイント】

  • ダブルノミネートは可能性あり
  • 片方を受賞すると片方の選考から外される
  • 同時受賞の可能性はほぼない

結論としては、ダブルノミネートは可能で過去例もありますが、同時受賞は過去例もありませんしほぼ不可能ということになります。

両方に候補としてノミネートされることはあっても、どちらかで受賞が決まると以後の選考からは外されてしまいますからね。

まあそこは人間が決めることですし、可能性はゼロではありませんが、よほどの傑作ではない限り通例に則って、受賞後は選考から外されるということになるでしょう。

そもそもが対象となるジャンルやキャリアの違いから、両方の候補に挙がること自体が珍しいんですけどね。

過去の芥川賞と直木賞ダブルノミネート

かなり少ないですが、芥川賞と直木賞ダブルノミネートの過去例もあります。

開催回 作者 作品
第25回
(1951年)
柴田錬三郎 デスマスク
第39回
(1958年)
北川荘平 水の壁
第66回
(1971年)
木野工 襤褸

これらの作品は芥川賞と直木賞にダブルノミネートはされましたが、いずれの作品も受賞はしていません。

ダブルでノミネートされるほどの作品でも受賞に至らないことを考えると、受賞の壁はやはり厚いものなのだと実感できます。

そう考えると、「響~小説家になる方法~」での響の偉業の凄さが窺えちゃいますね。まあそこはフィクションなのですが。

同時受賞者のダブル受賞はあり得る

同作者のダブル受賞はほぼあり得ないということが見えてきましたが、別作者の同時受賞というのはあり得ます。

というか、過去例も割と多いです。

平成20年から平成30年の芥川賞と直木賞ダブル受賞者を一覧としてみました。

開催回 受賞者
第140回
(2008年下半期)
直木賞 天童荒太
山本兼一
第142回
(2009年下半期)
直木賞 佐々木 譲
白石一文
第144回
(2010年下半期)
芥川賞 朝吹真理子
西村賢太
第144回
(2010年下半期)
直木賞 木内昇
道尾秀介
第146回
(2011年下半期)
芥川賞 円城 塔
田中慎弥
第148回
(2012年下半期)
直木賞 朝井リョウ
安部龍太郎
第150回
(2013年下半期)
直木賞 朝井まかて
姫野カオルコ
第153回
(2015年上半期)
芥川賞 羽田圭介
又吉直樹
第154回
(2015年下半期)
芥川賞 滝口悠生
本谷有希子
第158回
(2017年下半期)
芥川賞 石井遊佳
若竹千佐子

お笑い芸人ピースの又吉直樹さんと、羽田圭介さんのダブル受賞はかなりの話題ともなりましたし、覚えている方も多いかもしれませんね。

このように、10年間でも10例とそれなりの頻度でダブル受賞が選出されていることがわかります。

また、逆に受賞者不在の回もあるので、絶対的な評価の方が重視されるという面があります。

おそらくはそれなりの相対評価という部分もあるでしょうけどね。傑作には傑作の評価をしてもらえるという平等さです。

芥川賞と直木賞作品の発行部数

さて、ここまでで芥川賞と直木賞の違いやダブル受賞について見てきましたが、芥川賞と直木賞作品の発行部数についても少し見てみましょう。

直木賞 芥川賞
開催回 作者/作品 発行部数 作者/作品 発行部数
第150回 朝井まかて
「恋歌」
8万部 小山田浩子
「穴」
8.7万部
姫野カオルコ
「昭和の犬」
10.8万部
第151回 黒川博行
「破門」
10万部 柴崎友香
「春の庭」
6万部
第152回 西 加奈子
「サラバ!」
47万部 小野正嗣
「九年前の祈り」
6.6万部
第153回 東山彰良
「流」
24万部 羽田圭介
「スクラップ・
アンド・ビルド」
21万部
又吉直樹
「火花」
253万部
第154回 青山文平
「つまをめとらば」
8.6万部 本谷有希子
「異類婚姻譚」
13.5万部
第155回 荻原 浩
「海の見える理髪店」
17万部 村田沙耶香
「コンビニ人間」
56万部
第156回 恩田 陸
「蜜蜂と遠雷]
57万部 山下澄人
「しんせかい」
5.8万部
第157回 佐藤正午
「月の満ち欠け」
12万部 沼田真佑
「影裏」
6.5万部
第158回 門井慶喜
「銀河鉄道の父」
13万部 石井遊佳
「百年泥」
4万部
若竹千佐子
「おらおらでひとりいぐも」
50.7万部
第159回 島本理生
「ファーストラヴ」
10万部 高橋弘希
「送り火」
5.5万部

(発行部数は2018年時点でわかっている数字です。初版部数だと1万部~10万部辺りですが、話題性等によってそこも変わってくる傾向です)

他に抜きん出ていた数字は、2003年に最年少で芥川賞を受賞した綿矢りささんの「蹴りたい背中」が初版35万部で、その後127万部まで部数を伸ばしています。

又吉直樹さんの「火花」の発行部数が200万部オーバーと抜きん出ていますし、いかに一般層にアピールできるかという話題性が重要な面もあるのは否めません。

もちろんそこには作品のクオリティありきだとは思いますが。

1990年代だと平均発行部数はもう少し多くなる傾向でもありましたが、大きくは変わらない数字でもありました。出版不況と言えども、芥川賞と直木賞作品の発行部数には影響が少ないということかもしれませんね。

ただ、小説全般で見ると明らかな出版不況というのは間違いありません。

ここは娯楽の分散もありますし、如何ともし難い部分もあるのでしょう。

現時点では、娯楽に特化した一般向け小説であるライトノベルの方が需要的に勝っている部分もあるのかもしれませんね。

参考ライトノベル累計発行部数一覧&ランキング

直木賞と芥川賞まとめ

直木賞と芥川賞について掘り下げてみました。

【直木賞と芥川賞】

  • 違いはジャンルとキャリア
  • 同作者のダブル受賞はほぼあり得ない
  • 別作者の同時受賞は割と多い

出版不況とも言われて久しい文学界ですが、直木賞と芥川賞は毎年話題にもなりますし、ピース又吉直樹さんのような社会現象すらも巻き起こす爆発力をも持っています。

映画化された人気漫画の「響」でもダブルノミネートが取り上げられていますし、今後の両賞並びに文学界のより一層の盛り上がりに期待したいものと思います。

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