
祖父江リカ著「四季降る塔」
作品内の作品ですが、どんな小説か気になりますよね。
しかし、原作漫画「響~小説家になる方法~」と、実写映画「響-HIBIKI-」でもその詳細は語られません。
あらすじとしては、「一日で一年が過ぎる塔に住む少女」の話ですが、リカの打ち明けや響の感想から「四季降る塔」について掘り下げてみましょう。
目次
祖父江リカ著「四季降る塔」
「四季降る塔」は、16歳の高校2年生である祖父江リカのデビュー小説です。
(もちろん、漫画「響~小説家になる方法~」内のキャラ&作品ということで、現実では書籍化発売されていません)
作品内の小論社からの出版で、初版は10万部(映画では20万部設定)。そして、すぐに3万部の重版も決まっています。
この辺りは、リカの父親がおなじみ(?)の祖父江秋人ということで、話題性が先行した部分も大きいでしょう。
なんと言っても、デビュー作の初版で10万部ですからね。
新人作家でこれは異例の部数です。
まあ、この辺りは、リカ自身も自分への評価ではないことを悟っている様子でもありましたが。
参考芥川賞と直木賞の違いは?ダブル受賞はあり得る?
四季降る塔あらすじとストーリー
四季降る塔は、「一日で一年と四季が過ぎる塔に一人で生きる少女」の話です。
時系列は、
- 少女8歳:大きな世界戦争でほとんどの人間が死んだ
- 少女12歳:再び人間が繁栄
- 翌年:戦争によって人間が死に絶える
- 少女15歳:少女は今日も一人、塔から世界を見る
という流れで、「一人の孤独な少女」がストーリーの軸です。
おそらくは、「人間の欲望」がひとつのテーマであり、その世界から隔絶された少女との対比が描かれているのでしょう。
四季の塔での1日の間に、外の世界では1年が過ぎているということで、少女が1年過ごすと外では365年経っているということになるはずです。
8歳の時は2920年、12歳の時は4380年、13歳の時は4745年、15歳の時は5475年ということですね。
少女は、何千年もの人間の歴史を早回しで見ているような感覚で、それは愚かで醜いものの方が多かったかもしれません。
破壊と再生を繰り返している人間の欲望に、絶望や諦めを抱いたこともあったでしょう。
そして、その少女の孤独や死生観をリカがうまくまとめていったのだと思います。
しかし、そこに落とし穴がありました。
リカ自身がこの少女に共感できないという、創作においての致命的な欠陥です。
リカのオリジナル
リカは元々、「1日に四季のある国」を書いてみたかったとのことでした。
春に目が覚めて
夏に働いて
秋になったら家に帰り
冬になると眠る
これがリカのオリジナルです。
なんだか楽しそうじゃないですか?
誰しもが思い浮かべることのある理想の暮らしでもあるかもしれません。
花井ふみのリテイク
そこに、ドラマ性を生み出すため、花井ふみのリテイクが入りました。
- 対比として外の世界を作る
- 2つの世界だとストーリーが複雑
- 四季の国はキャラが一人
- 孤独な女の子の話に
こういった流れでリテイクが進み、四季降る塔に至ったわけです。
これはこれでいいとは思うんですけどね。
おそらく、響ならこういった死生観の話がハマったかもしれませんが、リカには合わなかったのでしょう。
「自分の引き出しにないものは書けない」
という作家の大原則です。
面白そうな要素だからと寄せても、そこには小手先で上っ面の作品しか描けません。
自分の書けないものに、想いをぶつけることもできませんから、響に「つまらない。何が書きたかったのかわからない」と言われてしまうのもしょうがないでしょう。
響による四季降る塔の感想
鞄を投げ合う2人。リカの投げた鞄は響から跳ね返り落ち、響の鞄はリカにズシンと届く。続いて平手打ち。ここでも『戦争ごっこ』からの「往復」が続いている。リカの最後の一発は頬ではなく頭だったぞ(痛そう)。結果、1ヶ月絶好。約束の日まで。 pic.twitter.com/3Xn5HjLS6g
— Nishi-maki- (@Tower_of_Film04) 2018年9月28日
響による四季降る塔の感想は、「つまらなかった。なにアレ」という酷評でした。
からのリカとの絶交に至り、仲直りした後も「ストーリーと構成がまとまってるだけのただの文章。書きたいことが何が何やら」という追い打ちです。
そして、鬼島さん的には「悪い作品ではないんですけどね。16歳という年齢を考えるとよく書けている」というフォロー込みのせつなさ。
しかし映画では、祖父江秋人は「面白い方の棚に並べる」とリカに声を掛けました。
これはなくさめではなく、本心でもあったのでしょう。これは漫画にない映画オリジナルですが、なかなかの胸アツシーンです。
四季降る塔は漫画何巻?
四季降る塔のエピソードは、響原作漫画の4巻から5巻にかけてです。
4~5巻は、響の「お伽の庭」の芥川賞・直木賞ダブルノミネートでの盛り上がりで、映画でもクライマックスの辺りです。
山本春平「豚小屋の豚」や豊増幸「屍と花」なんかの芥川賞ノミネートタイトルも出てきますし、これらの作品もどんな内容か気になってしまいますよね。
別冊的に作品の一部だけでも出してくれないかなあと。
四季降る塔まとめ
響の作品内作品である「四季降る塔」は「一日で一年と四季が過ぎる塔に孤独に生きる少女」の話です。
残念ながら、その内容は推測するしかありませんが、リカのオリジナルよりもリテイクによる影響が強いものと思われます。
んー、オリジナルバージョンも見てみたいですし、リカが評価される次回作にも期待です。
というわけで、響よりもリカ派の私でした。